「下駄箱事件」と私の方言奮闘記 〜駆け出し建築士の失敗談〜
今となっては笑い話ですが、あれは私がまだ駆け出しだった頃のこと。
なにせ私は九州出身。最初にぶつかった壁が——方言でした。
とくに現場でやり取りする大工さんたちの南部訛りは、もはや私にとって“暗号”のよう。
■言葉が、入ってこない
青森に来たばかりの私は、現場に立つたびにこう思っていました。
「大工さんが何を言ってるのか、まったくわからん!」
「何度も聞き返すのも気まずいし…」
「これ、もはや呪文だな…」
耳に飛び込んでくる言葉は、まるでこんな感じ。
「◯@◎*●△▽∴!#$%*?*`_{M*@」
もう、ホントにこう聞こえるんです(笑)。
■そして事件は起きた
ある日、上棟直後の現場で木工事の段取りを確認するため、大工さんと打ち合わせをしていたときのこと。
相変わらず聞き取れないセリフのなかに、ひときわ気になる単語が。
「◯@◎*●△▽∴…下駄箱が…*?*`_{M*@」
「…下駄箱?」
「これはもしや、“下駄箱を現場に入れてくれ”って意味では?」
そう思い込んだ私は、すぐさま建材屋さんに電話。
「下駄箱、現場にお願いします!大至急で!」
すると建材屋さんも気を利かせてくれて、サッと手配してくれました。
ただ、現場はまだ骨組みだけ。
「この状態で下駄箱って……早すぎじゃ?」と内心首をかしげながらも、
「きっと、こだわりのある大工さんなんだろう」
などと勝手に納得していたそのとき——
電話が鳴りました。
■「何やってんだ〜!」
大工さんからの電話です。
受話器の向こうからは、
「何やってんだ〜◎*●△▽∴¥今下駄箱入れてどうするんだよぉ〜◎*●△▽∴%“”#」
という、怒涛の呪文の嵐……。
慌てて私はまた建材屋さんに連絡。
「すみません!下駄箱、大至急引き上げてください!」
——まさに、“下駄箱事件”でした。
■あれから時が流れて
今では南部訛りにもずいぶん慣れました。
職人さんとのやりとりにも、耳と心がついていけるようになった気がします。
それでもときどき、「これ、何て言ってるのかな…」と頭を悩ませることはあります。
でも、言葉じゃなく**“ニュアンス”でわかる感覚**が少しずつ身についてきたのは、現場での経験があってこそだなと感じます。
■理屈ではない
建築の現場って、図面や理屈だけじゃ回らないんですよね。
大事なのは、人とのやりとり、そして伝わらないことを恐れず、聞く勇気。
私にとって“下駄箱事件”は、そんなことを教えてくれた大切な失敗でした。
今となってはいい思い出ですが・・・・